葉巻が初めての方へ
葉巻のガイド
最初のカットから、その先の深い世界まで。葉巻の世界を、穏やかに、正直にご案内します。どこから読み始めても構いません。
はじめに
このガイドに書かれていることは、すべて決まりではなく、ひとつの助言です。葉巻はあなたのものです。あなたの世界で、あなたのペースで、好きなように楽しんでください。ここにあるのは、長い年月のなかで多くの人に役立ってきたことにすぎません。役に立つものを取り入れ、そうでないものは手放してください。最後に試験があるわけでもなく、自分のために選んだものを楽しむのに、間違ったやり方などありません。
01
あなたは思っている以上に、すでに知っている
葉巻の世界に足を踏み入れるのは、まるで誰もが自分の知らない言葉を話している会員制クラブの扉の前に立つような気分かもしれません。プロ。フルボディ。シングルオリジン。ずいぶん難しそうに聞こえます。
でも、種を明かしましょう。あなたはもう、そのほとんどを話せるのです。
ワインを飲む方なら、ぶどうが育つ場所がすべてを変えることをご存じでしょう。コーヒーが好きな方なら、ピュアアラビカが安いブレンドとはまるで違う味だと知っています。ウイスキーを嗜む方なら、カスクストレングスを理解していて、ピートの効いた一杯が穏やかなスペイサイドとはまったくの別物だとわかるはずです。抹茶がお好きなら、青々とした風味と甘みの違い、薄茶と濃茶の違いを感じ取れるでしょう。
葉巻も同じです。プロとは、シングルオリジンのコーヒーがひとつの土地から生まれるように、ひとつの国のタバコだけで作られた葉巻のこと。フルボディは、葉巻版のカスクストレングスにすぎません。より強く、味わいにより重みがある、ということです。言葉は新しくても、その奥にある感覚を、あなたはもう持っているのです。
ですから、あなたは何も知らない初心者ではありません。すでに鍛えられた味覚を携えて、新しい部屋に入ってきた人なのです。このガイドは、その地図をお渡しするだけです。
02
ゆっくりと。これはひとつの儀式です。
葉巻についてまず知っておきたいのは、それが「ゆっくりすること」を求めてくる、ということです。良い葉巻は、電車に乗る前にコーヒーをさっと買うようには楽しめません。とっておきのボトルを開けるときのように、そのための時間を取り分けるのです。
そこにはどこか厳かなものがあり、それこそが大切なところです。葉巻に惚れ込む人の多くは、煙そのものと同じくらい、その儀式に惚れ込んでいます。
まずは眺めることから。ワインでは「ドレス」、つまりグラスに注がれたときの色について語ります。味わう前に最初に読み取るものです。葉巻にも、それにあたるものがあります。ラッパー、スペイン語では「カパ」と呼ばれる外側の葉です。葉巻の言葉の多くはスペイン語から来ています。色とつやを見て、それから葉に走る葉脈をよく見てください。上質なラッパーは、柔らかくほとんど目立たない葉脈を持つ繊細な葉です。葉脈が太くはっきりしているときは、より粗い葉で、選別があまり丁寧でなかった証です。継ぎ目も見どころです。ラッパーが螺旋を描いて重なっていくところで、そこが目立つなら、巻きがきつくなかったということ。これらが必ずしも味を変えるわけではありませんが、手にした葉巻にどれだけの手間がかけられたかを教えてくれます。
次はコールドドロー。葉巻をカットしたあと、火をつける前に、唇に当てて火のついていないままそっと吸ってみます。冷たいまま味わい、炎が触れる前に葉巻を読み取る。これから訪れるものの最初の手がかりを感じ取るのです。ウイスキーを最初のひと口の前に香るのと同じ感覚です。まずは挨拶を交わすわけです。
自分の道具を整えましょう。信頼できるカッター、きちんとしたライター、心地よく座れる場所、そばに置いた一杯。どれも気取ったことではありません。きちんと楽しもうと自分で選んだ良いものに注ぐ、当たり前の心配りです。
葉巻は、あなたが注いだ時間にきっと応えてくれます。それがすべてです。
03
カット
葉巻に火をつける前に、まず開きます。唇に当てる閉じた先端、キャップを、煙が通るようにきれいにカットする必要があります。これがうまくいけば、その後はすべて簡単です。失敗すると、始める前に葉巻全体をほどいてしまうこともあります。
いちばん一般的な道具はギロチンカッター。まっすぐな刃が、ひと息でキャップを落とします。コツは、どこを切るか。落とすのはキャップ、あの少し丸まった先端だけ。葉巻が広がりはじめる「肩」の手前で止めます。その線を越えて深く切りすぎると、ラッパーが指の中でほどけはじめてしまいます。
私たちのギロチンカッターがこの形につくられているのは、まさにそのためです。普通のギロチンは両側が開いていて刃がまっすぐ通り抜けるので、葉巻を入れすぎても止めるものがありません。私たちのものは片側が閉じています。これはもともと、ロゴを入れたいという単純な思いから始まったのですが、結果としてもっと良いものになりました。閉じた背面がストッパーの役割を果たすのです。葉巻はそこまでしか入らないので、物理的に深く切りすぎることができません。考えなくても、毎回きれいで正しいカットができます。設計上のちょっとした偶然が、本当に優れたカッターを生んだわけです。とくに始めたばかりの方には心強いはずです。
ひと思いに、しっかりと。のこぎりのようにゆっくり挽いてはいけません。自信を持って素早く切れば、切り口はきれいに。ためらうと、つぶれてしまいます。
04
トーストと火付け
葉巻は、切り方と同じくらい、火のつけ方が大切です。カットするのはヘッド、唇に当てる側。火をつけるのはフット、下側の開いた端です。火付けを急ぐと、出だしからつまずきます。時間をかければ、葉巻は本来のように開いていきます。
炎には二種類あり、良い葉巻はその両方を求めます。
まずはトースト。フットを炎のすぐ上に、触れないように構えて、葉巻をゆっくり回します。外側の縁だけを炙る人もいます。私は、フット全体がしっかり熱くなるまで炙るのが好きです。そうすれば、すでに赤く色づいて、ソフトフレームに移ったときに火がつきやすくなります。これは私のやり方であって、決まりではありません。あなたが心地よいと思うようにしてください。いずれにせよ、この段階ではまだ吸っているわけではなく、タバコを温め、すべての葉が一体となって燃えるように束ねているのです。ここでジェットフレームが本領を発揮します。熱く、的を絞った炎なので、素早く均一に炙れます。これを飛ばすと、葉巻は片側だけが早く燃え進むなど、最後まで不均一に燃えてしまうことがあります。
次に火付け。フットを炙り終えたら、葉巻を唇に運び、炎をフットのすぐ下に構えて、何度かそっと吸って火をタバコへと引き上げます。ここで使いたいのはソフトフレーム、穏やかな炎です。ソフトフレームは葉巻を大切に扱います。焦がさず、繊細なラッパーを炭にすることなく火をつけるので、最初の風味が焦げではなく、澄んだまま立ち上がります。
これこそが、HEAVYEIGHTデュオフレーム・ライターの発想そのものです。ひとつの道具に二つの炎を備えています。カナダの友人の会社が作っていて、葉巻を吸う人にとって完璧な一品だと思い、私が日本へ持ち込みました。ジェットでフットを炙って葉を束ね、ソフトフレームで穏やかに火を入れる。片方で炙り、もう片方で火をつけ、最初の数服のあいだソフトフレームを灯し続ければ、葉巻は均一な燃え方へと落ち着いていきます。二つの炎、ひとつのライター。葉巻が火をつけてほしいと願う、まさにそのやり方です。
05
実際の吸い方
ここは、ほとんどの人が始めにつまずくところで、しかもこのガイド全体でいちばん大切なことなので、はっきりお伝えします。
葉巻は吸い込みません。煙を肺に入れることは決してありません。これは紙巻きタバコではないのです。葉巻の楽しみは、まるごと口と鼻のなかにあります。
ワインの正しいテイスティングを思い浮かべてください。本格的なテイスティングでは、飲み込みません。口に含んで、味わって、吐き出します。大切なのは味わうことであって、アルコールではないからです。葉巻も同じ原理です。大切なのは風味で、何ひとつ肺に送らなくても、そのすべてを味わえます。煙が入り、味わい、煙が出ていく。
ですから、煙をそっと口に引き入れ、少しのあいだとどめ、舌の上で転がして、外へ出す。それだけです。それが葉巻を吸うということです。
何が起きているのかを知っておくと役に立つので、説明しましょう。葉巻のタバコには天然のオイルがたっぷり含まれています。燃える熾火でそのオイルを穏やかに温めると、香りと風味が放たれます。あなたが味わっているのは、その温められたオイルが煙に乗って運ばれてきたものなのです。口がその一部を読み取り、そしてこのあとお話しするように、鼻はさらに多くを読み取ります。
準備ができたら、レトロヘイルを試してみてください。これは世界をまるごと開いてくれる一歩で、早いうちから知っておく価値があります。私のやり方はこうです。ひと口吸って、煙を口の中に行きわたらせ、そのうち八割ほどをいつものように口から出し、残りの二割をそっと鼻へと押し上げて抜きます。
なぜそんなことを、と思うでしょうか。私たちが風味と呼ぶもののほとんどは、実は味ではなく、香りだからです。舌が本当に感じ取れるのは基本だけ、甘い、酸っぱい、塩辛い、苦い。それ以外のすべて、チョコレート、はちみつ、ナッツ、果実は、鼻の奥高くにある香りの受容体から生まれます。煙を少しだけ鼻から抜くと、その受容体を通り、葉巻の味は急に十倍も深くなります。食卓で、名前をつけないままこれを経験したことがあるはずです。強すぎて、ほとんど味わえるほどの香り。あれと同じことです。そして香りは記憶と深く結びついているので、その風味はより強く心に残ります。
ワインのテイスターが、ワインを舌に乗せたまま口から少し空気を吸い込むのも、まさにこのためです。同じ仕掛け、同じ理由。香りを鼻へと送り、そこで本当のテイスティングが行われるのです。
ひとつ、やさしい注意を。最初はレトロヘイルを控えめに。煙はたっぷりではなく、ほんの少し。鼻に穏やかな葉巻もあれば、最初は刺すように感じる葉巻もあるので、少しずつ始めて慣らしていってください。急ぐ必要はありませんし、ひと口ごとにやる必要もありません。
さて、良い一服と台無しの一服を分けるところ、ペースです。ゆっくりと。葉巻は穏やかに、だいたい一分に一服くらいで吸われたがっています。急いで吸いすぎると熾火が熱くなりすぎ、あの繊細なオイルは風味を放つのをやめて、代わりに焦げはじめます。すると葉巻は舌の上で荒く、苦くなります。一度熱くなりすぎると、もう元には戻せません。だからもし鋭く、苦く感じはじめたら、それは「ゆっくりしなさい」という葉巻からの合図です。少しのあいだ置いて、熾火を落ち着かせ、それからまた戻ってください。
気楽に、ゆっくり。それがすべての秘訣です。葉巻は何も急いでいません。あなたも、急がなくていいのです。
06
初心者にひとつの正解はありません。初心者という人が、ひとりとして同じではないからです
「初心者向けの葉巻」を教えてほしい、と多くの方が期待されます。そんなものはありません。そして、それは良い知らせなのです。
理由をお話しします。あなたは何も持たずにやってきたわけではありません。長い年月をかけて、ほかのもので味覚を鍛えてきました。あなたがすでに好きなものが、これから好きになる葉巻について多くを教えてくれます。ウイスキーをストレートで飲み、ピートの効いたボトルに手を伸ばす人は、静かに一服の抹茶を点てるのが日課の人とは、まったく違う葉巻に向いています。どちらがより初心者ということはありません。ただ、違う場所から、すでに手にした違う味覚とともに、出発するだけです。
ですから、誰にも同じ葉巻を渡して当たることを願うのではなく、あなたが今いる場所まで、こちらから会いに行きます。
そのためにあるのが、ショップの検索です。好きな風味や好きな飲み物を入れてみてください。コーヒー、はちみつ、ウイスキー、チョコレート。すると、その方向に寄った葉巻が表示されます。私たちの葉巻には、持っている風味でタグ付けされたものもあり、説明文のなかで何と合うかに触れているものもあるので、検索にはきちんとした手がかりがあります。あなたの言葉ですでに語ってくれるものを見つける、いちばんの近道です。
自分が好きだとわかっているものから始めてください。あなたの味覚には、もう意見があると信じて。ふさわしい最初の一本は、すでに好きな味とつながる一本であって、リストが吸いなさいと言った一本ではありません。
07
かたちが、味わいを変える
葉巻の大きさとかたちは「ビトラ」と呼ばれます。見た目だけのものだと思いがちですが、そうではありません。ビトラは葉巻の吸い心地を変え、味さえも変えるので、選ぶ前に知っておく価値があります。
ビトラはふたつの数字で表されます。長さと、リングゲージ、つまり太さです。ロブストは短くて太い。トロはもっと長い。ランセロは長くて細い。同じタバコのブレンドでも、どのかたちに巻かれるかで、別の葉巻のように感じられます。
なぜかたちが味を変えるのでしょう。理由はいくつかあります。太い葉巻はより多くのフィラー(中身のタバコ)を抱え、たいていより幅広い葉が混ざるので、より豊かで層のある味になります。ランセロのような細い葉巻は、少ないフィラーに対してラッパーの割合が増えるので、そのラッパーの葉の個性がよりはっきり表れます。さらに、太さによって燃え方が穏やかにも熱くもなり、それが味わいを少しずつ動かしていきます。
そして、かたちのついたビトラがあります。トルペードはヘッド、つまりカットする側が尖っています。その狭い口が、吸うときに煙をより細い流れにまとめ、口に届くころには凝縮させます。同じ葉巻でも届き方が違い、風味が際立つと感じる人が多くいます。
もうひとつ、ごく実用的な面もあります。ロブストは短めの一服で、三十分から四十五分ほど。ひと休みにちょうどいい。トロやもっと長いビトラは、ひと晩の相棒で、一時間以上かけて腰を据えて楽しむもの。ふさわしいビトラとは、ときに、手元にある時間に合う一本のことでもあるのです。
これらを暗記する必要はありません。同じ銘柄をふたつの違うかたちで試して味が違ったとき、それは気のせいではない、とだけ知っておいてください。かたちが、ちゃんと仕事をしているのです。
08
どこから来て、なかに何が入っているのか
基本が自然に身についてくると、その先にまるごと深い層が待っています。吸う人を、愛好家へと変えていくのがこの部分です。ワインを飲む人が「赤をください」と言うのをやめて、ぶどうの育った丘の斜面を気にかけはじめる、あの旅と同じです。
テロワール。ワインの世界では、その土地、土壌、気候、太陽が、そこで育つものに残す指紋のことをこう呼びます。タバコも変わりません。火山性の土壌で育ったニカラグアのタバコは、ドミニカ共和国やホンジュラス、エクアドルのタバコとはまるで違う味がします。国、さらにはその特定の谷が、葉巻が巻かれるよりも前に、味を形づくっているのです。吸う本数が増えるにつれ、こうした特徴が見分けられるようになり、自分に語りかけてくる産地が見つかります。
なかに何が入っているか。葉巻は三つの部分が一緒に働いています。ラッパー、もうご存じの外側の葉で、風味と香りの多くを担います。バインダー、その下にあって全体を形に保つ葉。そしてフィラー、芯となる葉のブレンドで、葉巻の本体と強さのほとんどを与えます。良い葉巻はひとつのレシピです。作り手が違う土地の葉を選び、特定の比率で混ぜ合わせ、目指す味を組み立てているのです。
ブレンド。ここにこそ、職人の技が宿ります。作り手は、ある国の明るくクリーミーなラッパーを、別の国の力強いフィラーの上に使い、どちらも相手を圧倒しないように釣り合わせる、ということをします。比率を変えれば、葉巻が変わる。たとえば「エクアドル産ラッパーに、ニカラグアとホンジュラスのフィラー」と書かれているのを読むとき、あなたはレシピを読んでいるのです。やがて、火をつける前から、そのレシピがどんな味になるかを言い当てられるようになります。
これらは、葉巻を楽しむのに必要なことではありません。何も考えずに何年も楽しく吸い続ける人はたくさんいます。でも、もしあなたがワインやコーヒーやウイスキーで深みにはまったことのある人なら、ここがその深みの入り口です。そして、深く、報われる世界です。
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いちばん簡単な始め方
ここまで読んでくださったなら、多くの人と同じことを考えているかもしれません。どれも素晴らしそうだけれど、結局どこから始めればいいの、と。
正直にお答えします。自分の好みを知るいちばんの方法は、ひとつの完璧な最初の一本に悩み抜くことではなく、幅広く味わってみることです。一本を一週間調べるより、五本の違う葉巻を試すほうが、ずっと多くを学べます。
だからこそ、私たちはビギナーパックを組みました。これは適当に集めた一握りではありません。きちんと幅をカバーするように選んでいます。違うビトラで、かたちが吸い心地をどう変えるかを感じてもらい、違う国の違うブレンドで、テロワールとレシピがすべてをどう変えるかを味わってもらい、そして強さと風味のすべての幅で、自分の心地よい場所と、心に響くものを見つけてもらうためです。
言い換えれば、これはこのガイドそのものを、あなたの手のなかに、すぐ吸える形にしたものです。自由に試し、一本ずつ比べていくうちに、本当に自分に響くものが見えてきます。パックを吸い終えるころには、もう当てずっぽうではありません。どの方向が自分のものかがわかり、検索と、今学んだことのすべてを使って、その先を見つける術もわかっているはずです。
葉巻に興味はあるけれど、どこから始めればいいかわからない人への、心のこもった贈り物にもなります。
自分のためでも、誰かのためでも、これは穏やかで満ち足りた入り口です。気負いも、間違った選択もありません。ただ、開かれた扉があるだけです。